カーカス / ハートワーク (1993)
1985年にイングランドで結成されたエクストリームメタルバンド。
1993年に発表された4枚目のアルバム[Heartwork]の4曲目に収録されています。
ゴアグラインドの創始者、そしてメロディックデスメタルの代表格としても知られるバンドです。
結成当初はグラインドコアに流血や人体実験など猟奇的なテーマを融合し、その過激なスタイルはゴアグラインドと呼ばれるようになりました。
ですがスウェーデンの[Carnage]に在籍していたMichael Amott(Gt)が加入して発表した前作の[Necroticism – Descanting the Insalubrious]からは音楽性が激変。
オーソドックスなデスメタルへと方向転換し、メロディックなギターソロも顔を出すようになります。
そのスタイルを更に進化させ、ブリティッシュロックの伝統であるツインリードのハーモニーを取り入れた独自のスタイルへと進んでいきます。
偶然にもスウェーデンでは[Edge of Sanity]や[At the Gates]がデスメタルに叙情的なメロディを取り入れる実験を繰り返している最中であり、Carcassもそのムーブメントに乗って注目されます。
こうして発表された本作はなんと全英チャートに67位にランクインし、バンドの最高傑作と評するファンも多くいる代表作となりました。
その中から、特に人気の高いタイトルトラックがこちらです。
冒頭で流れる初期しか知らないリスナーにとっては信じがたいツインリードのフレーズからして強烈です。
中心人物のJeff Walkerが語るには[Iron Maiden]や[Thin Lizzy]等の伝統的なブリティッシュロックのハーモニーを導入したとのことですが、[Entombed]等のスウェディッシュデスメタルからの影響も窺えるブルータルなサウンドとの対比が絶妙です。
メロディアスなプレイを導入したと言ってもほんの味付け程度で、軟弱な印象は一切ありません。
これに貢献しているのがKen Owenのドラミング。
テンポキープをあまり意識しないドタバタしたドラミングはタイトなプレイとは対極にあるのですが、展開と共に大きく変化するビートがバンドのアンサンブルに人間的なリズムをもたらします。
特にハーフテンポになったパートでの音の隙間をたっぷり使った危なっかしいプレイは、凄まじい緊張感です。
タイトで正確なリズムが求められるデスメタルにおいて、彼のドラムは唯一無二の個性を放っています。
Bill SteerとMichael Amottによるツインリードのハーモニーも秀逸です。
登場する回数は比較的少ないのですが、まるで血の涙を流すかのような絶望的に哀しいメロディは曲の持つ激しさをより一層高めます。
嵐のように吹き荒れるギターリフから美しいソロにこれほど自然に転換できるのかと驚かされました。
特に、曲のラストで聴けるMichael Amottのギターソロで衝撃を受けたリスナーも多いのではないでしょうか?
まるでUli John Rothのようなワウを効かせた艶かしいプレイは、これまでのデスメタルでは絶対に聴くことができませんでした。
彼が後に結成した[Arch Enemy]ではトレードマークとなっていますが、1993年当時からこのプレイをしていたことが驚きです。
この曲がきっかけで本人達にその意図は全く無かったとはいえ、Carcassはメロディックデスメタルの始祖として知られるようになりました。
ブリティッシュメタルとデスメタルの化学反応を引き起こした奇跡の名曲です。
コメント