聖飢魔II / 空の雫 (1998)
1982年に東京の早稲田大学で結成されたヘヴィメタルバンド。
1998年に発表された11枚目の大経典(アルバム)[MOVE]の4曲目に収録されています。
悪魔によるヘヴィメタルを用いた布教活動という徹底したコンセプトとイメージ戦略によって、ジャンルの垣根を超えて成功をした国民的バンドです。
1985年に地球デビュー以来ヘヴィメタルにとどまらない幅広い音楽性をアピールして傑作を連発しますが、[蝋人形の館]に代表されるイメージの定着がバンドを苦しめます。
そこで地球デビュー10周年を迎えたのをきっかけにレーベルをFITZBEATからBMGへと移籍。
旧メンバーのダミアン浜田殿下とジェイル大橋代官から提供された楽曲を含む原点回帰の[メフィストフェレスの肖像]と、美しいコーラスワークやデジタルなシンセサウンドを導入した[NEWS]を発表して新たな信者を獲得します。
そして[ROMANTIC MODE]の鈴川真樹とジョーリノイエを共同プロデューサーに迎え、バンド史上最もポップな本作を発表します。
ヘヴィメタルの要素も悪魔的要素も全く見られない異色な作風ですが、キャッチーで親しみやすいメロディが受け入れられてこれを最高傑作と称する信者もいるほどの名盤となりました。
その中から、ドラマチックで前向きなハードポップナンバーがこちらです。
信者の間では『綺麗な聖飢魔II』と呼ばれる時期をまさに象徴する、純真で希望に満ちたムードに溢れています。
美しいストリングスのソロから、泣きのギターが強烈な哀愁を放つイントロに繋がる展開は実にドラマチック。
デーモン閣下の透き通った美声で丁寧に言葉を綴る歌唱にも惚れ惚れさせられます。
ヘヴィメタルを歌う際のどこかコミカルな要素は一切無し。
不安な日常から飛び出す勇気を後押しするメッセージを感情豊かに歌い上げるパフォーマンスは、悪魔が歌っているなんて信じられません。
サビのバックで流れるコーラスワークも非常に練られており、美しく響き渡るハーモニーはまるで聖歌隊のよう。
つくづく、悪魔のコンセプトとは真逆を貫いていると感じました。
アニメのオープニングテーマのように一聴しただけで引き込まれる極端にキャッチーなアレンジは、作詞・作曲・編曲の全てを担っている[ROMANTIC MODE]の2人によるものです。
当時は機動新世紀ガンダムXのオープニングテーマを手がけていたので、そのイメージで作られたかもしれません。
事実、インターネット上にはファンがガンダムの映像と組み合わせて非公式の動画を公開していますが、驚くほどに違和感がありませんでした。
ここまで過去のコンセプトから逸脱されると、悪魔が演奏する意義すらも疑ってしまいます。
もしかしたら、ゼウスの妨害から目を眩ませるためにあえて外部の力を借りて改心をしたフリをしたのかもしれません。
ハードロックやヘヴィメタルの範疇から大きく外れながらも、この曲をフェイバリットに挙げる信者(ファン)も決して少なくはありません。
新たな方向性に果敢にチャレンジをした結果生み出された名曲です。
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