ヘル / オン・アース・アズ・イット・イズ・イン・ヘル (2011)
1982年にイングランドで結成されたヘヴィメタルバンド。
2011年に発表した1枚目のアルバム[Human Remains]の2曲目に収録されています。
苦しかった下積み時代を経て1986年にベルギーのMausoleumと契約し、アルバムのリリースが決定するもレコーディング開始2週間前にレーベルが倒産。
そのままバンドは解散し、リーダーのDave G. Halliday(Vo/Gt)は自ら命を断つという悲劇に見舞われました。
しかし2008年にバンドは再結成され、彼らが可愛がっていた後輩バンド[Sabbat]のMartin Walkyier(Vo)とAndy Sneap(Gt)を招いて当時リリースされる予定だったアルバムのレコーディングを開始します。
Andy Sneapのプロデュースの元でアルバムが完成するも、音楽性に対して声質が馴染めなかったMartin Walkyier(Vo)が離脱。
後任としてKev Bower(Gt/Key)の実弟で舞台俳優や声優として活躍していた David Bower(Vo)が加入し、全てのヴォーカルパートをレコーディングし直してリリースの運びとなりました。
その中から、1983年のデモ音源にも収録されていたバンドの代表曲がこちです。
ツインリードのハーモニーやシンセのサウンドでメロディックに彩った壮大なイントロ。
そこからリズムチェンジをして飛び切りキャッチーなギターリフ移行するドラマチックな展開は、多くのヘヴィメタル愛好家に衝撃を与えました。
バンド名が表す通りにヘヴィでイーヴルな雰囲気がたっぷりと含まれており、1983年当時にイングランドで活動していた他のヘヴィメタルバンドとは一線を画しています。
世界観は[Angel Witch]と似ていますが、こちらは更にテクニカルで曲展開が複雑です。
サタニックな雰囲気を演出していた[Venom]とは音楽性がまるで違いますし、そもそもジョークの延長でサタニックな歌詞を歌っていたに過ぎません。
比較対象があるならば、同時期に結成されたデンマークの[Mercyful Fate]が最も近いでしょう。
楽曲自体は非常にキャッチーで聴きやすいのですが、強烈なオカルトな雰囲気を演出しているのがDavid Bower(Vo)の存在です。
極端にシアトリカルなパフォーマンスで、ジェットコースターのように落差の激しいメロディラインを歌い上げます。
本業は俳優なので、歌詞に出てくる悪魔の予言を伝える伝道師になりきるのもお手のもの。
どんなに上手いメタルシンガーでも敵わない迫真の演技の前には、時が経つのも忘れて引き込まれます。
Martin Walkyierが録音したテイクを捨ててまで起用した理由も納得です。
また、要所で使用されているシンセのサウンドも良いスパイスになっています。
この曲が作曲された当時、ここまで激しいヘヴィメタルにシンセを使うバンドは少数派でした。
ここはKev Bower(Gt/Key)の拘りのようで、ドラマチックな雰囲気を演出するために意図的に多用しているとのこと。
1983年のデモ音源にもバッチリと入っていたので、もし80年代にこの曲が正式にレコーディングされていたらシーンに大きな衝撃を与えたことでしょう。
ヘヴィメタルシーンを代表するプロデューサーでもあるAndy Sneap(Gt)の手がけたサウンドプロダクションも非常に良好。
彼にとっては、自信がギタリストを志すきっかけになったバンドに関われたことで本当に幸せだったと思います。
歴史に埋もれる運命でありながら、現代のテクノロジーによって奇跡的に蘇った名曲です。
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