ストームウィッチ / アイ・オブ・ザ・ストーム (1989)
1981年にドイツで結成されたヘヴィメタルバンド。
1989年に発表された5枚目のアルバム[Eye Of The Storm]の1曲目(発売国によっては6曲目)に収録されています。
日本ではほぼ無名ですが、東欧地域で人気となって長く活動をしているベテランバンドです。
デビュー当時は[Judas Priest]と[Iron Maiden]からの影響がとても強い正統派なサウンドながらも、低予算でのレコーディングによって知る人ぞ知るマニア向けの存在でした。
ですが作品を重ねるごとにマイナス面が改善されていき、メロディアスなサウンドへと変化を遂げていきました。
ライブツアーにも積極的に出ており、ハンガリーや当時のチェコスロバキア等の東欧地域を中心に多くのオーディエンスの前でパフォーマンスを行います。
まだヘヴィメタルがそこまで盛んではなかった現地では、若者達を熱狂させて多くのファンを獲得できました。
1987年にリリースした[The Beauty And The Beast]がヨーロッパ以外でも発売されたことで自信をつけた彼らは、Hot Blood Recordsへと移籍。
Lee Tarot(Gt)がイニシアチブを握って発表された本作は、哀愁を帯びたメロディとインパクトの強い録音状態でマニアに愛される作品となりました。
その中から、特に人気の高いスピードナンバーがこちらです。
一聴して驚いたのは、良くも悪くも個性的なサウンドプロダクション。
前作のメジャーリリースにも耐えうる重量感のある音質から一変、まるで未加工のデモ音源を聴いているかのようです。
アンプではなくラジカセで出力してかのようなギター、ドラムマシンで打ち込んだかのような無機質で抑揚のないドラム。
どのような工程でレコーディングが行われたのか興味深い内容です。
ですが、そんな問題点が吹き飛ぶほどにメロディが充実しています。
まるで童謡か民謡を聴いている錯覚に陥る強烈なメロディラインは、否応にも全てのリスナーの心に刻まれます。
明るく希望に満ちた歌詞の内容と相まって、暖かく包み込んでくれる優しさを感じます。
非常に覚えやすいサビのメロディは、コンサートでの合唱にぴったり。
当時は東欧地域で数千人規模の集客をするまでに人気があったので、大合唱が起こっていたことでしょう。
同郷の[Helloween]も同じ時期に似た路線で人気を爆発させていたので、そこを意識したのかもしれません。
曲の魅力を最大限まで引き出しているのは、間違いなくAndy Mück(Vo)のパフォーマンスでしょう。
線の細い声質でパワーは感じられず、音程も不安定です。
ヘヴィメタルにはおよそ不適格な声かと思いきや、一度気に入ると彼の声無しでは満足できなくなる不思議な中毒性があります。
おそらく彼が歌うことを前提にメロディラインを作り込んでいるので雰囲気にベストマッチしているのでしょう。
シンガーが歌ってしまうと、逆に雰囲気が壊れるような気がしてなりません。
相当なマニアでないと理解するのは難しいかもしれませんが、一度味わうと止まらない珍味のようです。
北米やアジア圏での知名度はゼロに近く、それらの地域では一部の熱狂的なマニアだけに支えられてきたマイナーバンドです。
ですが、そんなマニアにとってはたまらない独特な空気感を持ち合わせている隠れた名曲です。
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